「SP AF 17-50mm F/2.8 XR Di II VC LD ASPHERICAL [IF]」。タムロンのレンズ名らしく記号がたくさんついて、やや長ったらしい名称になっているけれど、このなかで新レンズの特長をもっとも表す注目しておきたい記号は 「17-50mm F/2.8」 と 「Di II 」 、そして 「VC」 である。
ここでちょっと話が横道にそれるが、タムロンレンズには、こうした長いレンズ名とは別にタムロン独自のレンズモデル名称がある。「B005」 というシンプルな名前がそれで、タムロン社員の人たちやタムロンレンズに詳しいユーザーの間では、ごく普通にこのモデル名で呼び合っている。なので、ここでも以下それにならうことにする。「B005」 は、まずニコン用の発売が始まり、発売日は未定だがキヤノン用も予定されている (正式発表はしていないが10月末らしいとの話もある) 。
さて、B005 の注目の 3つの記号であるが、そのひとつ、「17-50mm F/2.8」 は言うまでもなくレンズの焦点距離と開放F値である。2つめの 「Di II 」 はタムロン独自の記号で、APS-C相当の撮像センサーサイズ用デジタル一眼レフカメラ専用のレンズのこと。つまり17-50mmの焦点距離はAPS-Cサイズ相当のデジタル一眼で使用すると、35mm判換算で 「約26〜78mm相当」 の画角をカバーする標準ズームレンズということになる ―― またここで話がわき道にそれてしまうけれど、タムロンではニコン、キヤノンのAPS-C相当のセンサーサイズの中間をとって焦点距離に1.55倍して画角換算値としている。今回試用した17-50mmズームはニコン用であったから、正しくは1.5倍して 「約25.5〜75mm相当」 となるわけだ。
「F2.8」 は、ズーミングしても開放F値に変化のないコンスタントF値ズームレンズであることと、このクラスのズームとしては “大口径レンズ” の部類に入ることを意味している。
で、3つめの 「VC」 は、Vibration Compensation の略で、すなわちタムロンが独自開発した手ブレ補正システムの名称である。3つの真円スチールボールと 3つの駆動コイルを使って補正系レンズをスムーズかつスピーディーに駆動させる方式で、スチールボールを使うことで摩擦抵抗を極めて少なくしているうえに電気的制御だけで補正レンズを動かすというシンプルな構造になっている。ややもするとメカニズムが複雑で大型化してしまいがちな手ブレ補正機構を大変に小型化できるといった特長がある。
それが証拠に、タムロン以外ではキヤノンの 「EF-S 17-55mm F2.8 IS USM」 が1本あるくらいだ。これは、大口径に対応した補正レンズと補正メカニズムを組み込んだうえで、さらにレンズを小型化するのが難しいからだ。B005 レンズが、手ブレ補正内蔵のF2.8コンスタントF値の標準ズームレンズとしては大変に小型に仕上がっているのは、そうしたタムロン独自の手ブレ補正機構によるところが大きいと言える。
B005 をニコンD90 やD300S などにセットして、じっくりと使ってみた。そこで非常に感心したことが 2つあった。ひとつはレンズそのものの描写性能が抜群に良かったこと。もうひとつは手ブレ補正 「VC」 がめちゃくちゃ良く効くことであった。手ブレ補正が良く効くことは、きわめてブレの少ない写真が撮れる。すなわちブレが少なければ少ないほど、本来の光学的なレンズ性能の実力を最大限に引き出しているということだ。
たとえばの話だが、大変に優れた手ブレ補正機構を備えているがレンズ性能そのものはイマイチだったとすると、イマイチのレンズ性能の “実力” が顕在化して逆に 「なんだこのレンズの描写は…」 ということにもなりかねない。良い光学性能を備えていることと優秀な手ブレ補正機構とは切っても切れない関係にあるばかりか、総合的なレンズ描写性能を数倍にも引き上げてくれる。このことはぜひ知っておきたい。
B005 の描写はF2.8 の開放絞り値から十二分な性能を備えている。シャープで切れ味も良く、画面中心部から周辺部まで均一な描写性能がある。ボケ味も柔らかくてじつにナチュラルだ。逆光でフレアーやゴーストの発生が大変に少なく、そのためヌケの良いクリアな描写をする。ディストーション (歪曲収差) が少ないのも ―― ワイド端で少し樽型歪みがあるものの ―― このズームレンズの特長のひとつと言っていいだろう。
手ブレ補正機構VCは、とくに低速シャッタースピードでずば抜けた実力を発揮した。どこのメーカーとは言えないけれど、ブレ補正の優秀さには定評のある 「とあるレンズ」 と、B005 を同条件で手持ち撮り比べをしてブレ補正確率 (撮影画像をピクセル等倍に拡大表示しブレているかどうかを目視してブレを認めない確率) をチェックしてみた。その結果は、「とあるレンズ」 のほうは 1/8秒あたりまではブレ補正確率85%ぐらいだったのに、1/8秒以下になるととたんに補正確率は25%までがっくりと低下してしまう。
ところがB005 はと言えば、なんと 1/4秒でも80%の補正確率を保ち、さらに 1/3秒でも補正確率45%、つまり10回シャッターを切ればそのうち4〜5回はブレのない (正確に言うならばブレの目立たない) 写真が撮れることになる。ちなみに撮影焦点距離は50mm側でのテストで、実質的には75mm相当の画角で 1/3秒の超スローシャッターでブレのない写真が得られるというのは (確率は半分になるとしても) 驚異的ではないかと思う。
ただし、B005 のこれだけ素晴らしい実力を備えたVCシステムだが ―― しいてウイークポイントを挙げるとすればだけど ―― 気になった点がただひとつだけあった。それは 「動作音」 だ。シャッターボタンを半押しするとAF測距が始まると同時に 「クゥーンッ」 とVCの駆動音がする。シャッターボタンから指を離して数秒するとVC駆動が止んで音もやむ。大変にかすかでレンズ鏡筒に耳を近づけないと聞き分けられないほどの小さな音なのだが、しかし、静かな場所でD300S で動画撮影をしたりすると、動画撮影中はずっとVCが駆動しているからその音がしっかり録音されてしまう。静止画だけを撮っているぶんにはまったく気にならないほどの小さな音だが、動画撮影でカメラ内マイクで同時録音するときに 「あれっ」 と気づいたことで、もちろん肝心の描写にはまったく関係も影響もないことだ。
とにもかくにも、こんな些細なことにしか文句が付けられないほどの、すべてにわたって優秀なレンズで、みんながもっともっと注目をしてもいいズームレンズではないかと思う。
(田中希美男)